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切り離せない人とトリ 政府の対策遅れが顕著に

2009年3月17日 rescuenow

 親子連れが軒先に並べられたペット用の小鳥を眺め、30分ほどでどれを買うか決めていた。店主に聞くと親子が買っていったのは、ジャワ島東部の東ジャワ州スラバヤとソロから仕入れた鳥で、値段は2羽で32万5,000ルピア(約2,600円)という。庶民にとっては決して安いとは言えない値段だが、ジャワ人にとって鳥を飼うことは、古くから地位の高さや豊かさを表すものとして生活に根付いた文化の一つ。今も多くの民家の玄関先に鳥カゴが飾られている。  ここは首都ジャカルタの南に位置するバリト市場。小鳥や大型の鳥類のほか、うさぎや猫、犬、亀など多種多様な動物を扱う店が道沿いに約40店並んでいる。ここでは売られている動物はほとんどがペット用で、土日ともなると多くの人でにぎわう市場の一つだ。

 バリト市場はジャカルタ特別州政府が2007年に鳥インフルエンザ対策として発表した「州内で家禽の飼育を禁止する州知事令」により、すでに郊外への移転対象地区になっている。インドネシアが鳥インフルエンザによる死者数の最も多い国となっている理由の一つに、家禽(かきん)との接触が身近に行われることがあり、政府は鳥のと殺場や養鶏場に加え、生きた鳥類を扱うペット市場の郊外移転に乗り出したためだ。

 移転を早急に行いたい州政府だが、バリト市場は今なお健在。移転計画に遅れが出ている。ジャカルタ特別州畜産水産局のエディ・スティアルソ局長は「2010年までに市場を郊外に移転させる。現在は市場で働く商人たちに情報を知らせている最中で、公共の安全のための計画に理解してもらえることを望んでいる」と語るが、地元紙によると、多くの店主たちが政府からの情報は何も入ってきていない話し、両者の間でズレが生じている。市場で働くアブドゥルさん(31)は「ここではお客がたくさんいるが、移転したら状況がどうなるか分からない。(この商売で)食べていけるのか不安だ」と語った。

 国家鳥インフルエンザ委員会は3月初め、インドネシア国内で今年に入ってから新たに4人が鳥インフルエンザ(H5N1型)に感染して死亡したと発表。国内での死者としては119人目で、国内での死者数は増え続けている。世界保健機構(WHO)が報告した2003年11月から2009年3月にかけての統計では、ベトナムが54人、中国が25人とインドネシアに続くが、これまでの世界での死者256人のうち約半数がインドネシアとなっている。

 2008年、国内の鳥インフルエンザの感染者は23人でうち19人が死亡するなど死亡率も高い。農業省によると過去6カ月間でジャワ島とスマトラ島のすべての州で感染者が報告された。日系企業の現地連絡会や大使館は、これまでに何度も鳥インフルエンザに関する対策セミナーや注意の呼び掛けなどを実施。企業や駐在員にパンデミック(世界的大流行)への警戒の高まりを感じさせる。

 2月にはバリ島の3村が警戒地域に指定され、鳥の持ち出しや持ち込みが禁止された。鳥インフルエンザが発生した地域では、度々家禽の焼却処分が行われている。鳥インフルエンザに対する住民の知識不足は事態を深刻化させる要因の一つ。世界最大のムスリム(イスラム教徒)人口を抱えるインドネシアでは、

豚肉の摂取は禁止されており、鶏肉が食の習慣としてインドネシア人に根付いている。鶏肉を食べる人、売る人、加工する人。庶民の間では驚くほど鳥インフルエンザへの関心は低い。市場で話を聞くと「私のところは大丈夫」と口をそろえて言う。

 バリト市場や首都圏の鳥を扱う施設の移転の遅れや、住民への啓発不足。鳥インフルエンザ対策は決して進んでいるといえない。国家レベルで世界各国との連携を図るとともに、住民を巻き込んだ対策が今後ますます求められている。  いつパンデミックが起こるのか。何も起こらずに終息するのか。邦人の感染者は日本へ帰国が認められるのか。国内の病院で治療が可能なのか。様々な疑問と憶測が国内で飛び交う。一刻も早い対策が非常時の被害縮小につながることは言うまでもない。

(インドネシア在住記者・岡坂泰寛)