
防災庁の発足が企業防災・BCPに与える影響とは
こんにちは。レスキューナウです。
2026年11月2日に「防災庁」が発足します。企業の総務・防災担当の方にとって気になるのは、国の災害対応の新しい司令塔となるこの組織の発足により、自社の義務や規制が増えるのか、今のBCPのままでよいのか、という点ではないでしょうか。
防災庁の発足で、企業に新しい法的義務や規制が課されることはありません(2026年10月30日現在)。一方で、国はBCPに取り組む企業が評価される環境づくりの検討を予定しており、企業の備えが問われる場面は今後増えていく可能性があります。
本記事では、防災庁の概要と企業への影響を整理したうえで、企業防災・BCPについて確かめておきたい点を、24時間365日災害や危機に関する情報を配信しているレスキューナウの視点で解説します。
▼ 企業防災・BCPへの影響を、現状の課題や期待される役割とあわせて知りたい方へ
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防災庁とは
防災庁とは、平時の事前防災から発災時の応急対応、復旧・復興までを一貫して担う、国の防災政策の司令塔となる行政機関です。これまで国の防災を担ってきた内閣府の防災担当を発展させる形で、デジタル庁や復興庁と同じく内閣の直下に置かれます。
設置までの経緯は図1のとおりです。2026年7月に防災庁設置法が成立し、9月30日公布の政令で発足日が11月2日に決まりました。
図1:防災庁 発足までの流れ(出典:内閣官房・参議院の公表資料をもとにレスキューナウ作成)
防災庁が担う3つの役割と権限
国の基本方針は、防災庁の役割を次の3つに整理しています。
- 防災の基本政策・国家戦略をつくる:
過去の災害の検証や最新の技術動向を踏まえ、中長期的な防災政策を立案する
- 平時の事前防災の司令塔:
被害を未然に減らす「予防力」と、発災後に円滑に動くための備えである「災害対応力」を両輪で強化し、府省庁や自治体などの施策の抜け漏れを見つけて調整する
- 発災時から復旧・復興までの司令塔:
政府の災害対策本部を運営し、デジタル技術を活用して被害状況を把握するほか、被災地の「ワンストップ窓口」として復旧・復興を支える
この3つの役割を果たすため、防災庁の長は内閣総理大臣が務め、庁の事務を統括する防災大臣が置かれます。なかでも特徴的なのは、防災大臣が関係行政機関の長に勧告でき、勧告を受けた側にはそれを尊重する義務があることです。
ただし、勧告の相手は府省庁などの行政機関に限られ、企業は対象外です。つまり防災庁は、国の施策を束ねる司令塔であって、企業の防災対応を直接指揮する組織ではありません。

図2:防災庁の組織の概要(出典:内閣官房の公表資料をもとにレスキューナウ作成)
防災庁が設置される背景
国が防災庁を設置する主な理由は2つあります。1つは国難級の大規模災害が懸念されていること、そしてもう1つは、今の体制では災害が起きる前の備えを十分に進められないことです。
日本では今後、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害が懸念されています。なかでも南海トラフ地震では、最大で約29.8万人の死者、資産などの被害だけで約225兆円の経済被害が想定されています。
ところが、国の防災の企画・調整を担ってきた内閣府の防災担当は、災害が起きるたびに対応に追われ、そのあいだは事前防災の企画を中断せざるを得ませんでした。
そこで国は、各省庁の縦割りによる施策の抜け漏れを平時から埋め、国や自治体、企業などの力を結集する司令塔として、防災庁の設置を決めました。
防災庁の発足で企業に新しい法的義務は課されない
防災庁は、企業も含めたさまざまな組織の力を結集する司令塔です。その点を踏まえると、自社にも新しい対応が求められるのではないかと気になる方もいるでしょう。
しかし、防災庁の発足によって、企業が新たに対応しなければならないことはありません。 防災庁設置法や、あわせて行われた法改正で新たに設けられた義務は、いずれも行政に向けたものです。
従業員の安全確保やBCPに関わる既存のルールも、そのまま残ります。防災庁の発足で変わることと変わらないことを、次の表にまとめました。
項目 | 防災庁の発足で変わること | 変わらないこと |
国の体制 | 防災の司令塔が内閣府の防災担当から防災庁へ移る | インフラ整備や気象観測、消防・救助など、各分野の防災施策は引き続き各府省庁が担う |
企業の法的義務 | 新しい義務はない | 労働契約法が定める従業員への安全配慮義務、消防法にもとづく消防計画、災害対策基本法が物資・役務を供給する事業者に求める事業継続の努力義務など |
BCP | 策定は義務化されない | 内閣府の「事業継続ガイドライン」が策定の拠り所 |
自治体との協定 | 協定を促すガイドラインを国が検討中 | すでに結んでいる災害時応援協定はそのまま有効 |
出典:e-Gov法令検索(労働契約法、消防法、災害対策基本法)、内閣府「事業継続ガイドライン」「広報ぼうさい」をもとにレスキューナウ作成
企業の備えを促す国の動きは始まっている
新しい義務がないのであれば、今の備えのままでよいと考える方もいるかもしれません。しかし、国は企業が自ら備えることに期待を寄せています。防災庁の設置に向けて有識者がまとめた報告書は、企業がサプライチェーンを通じた事業継続などに自ら取り組むことを求めています。
こうした期待は、すでに国の具体的な施策にも表れ始めています。
1つ目は、2027年度の概算要求におけるBCPに取り組む企業が評価される環境づくりの検討です。あわせて、同じ概算要求には、サプライチェーン全体を考慮した事業継続力の向上に向けた検討も含まれています。評価の仕組みが整い、サプライチェーン全体での事業継続が重視されるようになれば、取引先からBCPの有無や中身を問われる場面も増えていくと考えられます。
2つ目は、自治体と企業の協定を促すガイドラインです。自治体と企業は、物資の供給や施設の提供などについて、災害時の協定を結ぶことがあります。内閣府の「防災分野における地域と企業の連携の新たなあり方検討会」は、こうした協定を促すガイドラインを年度内にまとめる方針です。
防災庁の設置に向けた議論では、協定を結ぶだけでなく、発災時に実際に機能するものにしていくことが期待されています。
企業防災・BCPについて今確かめたい3つのこと
こうした国の動きに共通するのは、BCPや自治体との協定を用意しておくだけでなく、発災時に実際に機能させることが求められている点です。BCPに災害時の対応がまとまっていても、発災後に何を判断し、そのためにどんな情報を集め、いつ誰が動き出すかまで決まっていなければ、計画どおりに動くのは難しくなります。そこでまず確かめておきたいのが、次の3つです。
- 発災後に判断しなければならないことが決まっているか:
拠点の再開や代わりの拠点への切り替え、取引先への供給の優先順位など、発災後に判断が必要になることが洗い出されているかを確かめておきましょう。
- 判断のために、どんな情報をどこから集めるかが決まっているか:
拠点の再開や供給の判断には、自社の被害状況だけでなく、取引先の稼働状況やライフライン・交通の状況も必要になります。それぞれの情報をどこから得るかを確かめておきましょう。
- どの段階で、誰が何を始めるかの基準が決まっているか:
対策本部の立ち上げや、自治体との協定に沿った対応など、何をきっかけに、誰が動き出すかを確かめておきましょう。
3つのうち決まっていないことがあれば、そこが発災時に対応の止まりやすいところです。BCPを見直す際は、まずその点から考えてみるとよいでしょう。
まとめ:今の備えを確かめるきっかけに
防災庁の発足による企業への影響をまとめると、まず、企業に新しい法的義務が課されることはありません。防災庁は国の施策を束ねる司令塔であり、従業員の安全配慮義務などの既存のルールも変わりません。
一方で、国は企業が自ら備えることへの期待を示しています。BCPに取り組む企業が評価される環境づくりや、サプライチェーン全体を考慮した事業継続力の向上に向けた検討が予定され、自治体と企業の協定を促すガイドラインも年度内にまとめられる方針です。今後は、取引先からBCPの中身を問われる場面が増えていく可能性があります。
防災庁の発足を理由にBCPを作り直す必要はありませんが、自社の防災体制やBCPを確かめるよいきっかけになります。確かめる際は、発災後に自社でどんな判断が必要になり、それぞれにどんな情報が要るのかを、具体的な場面に当てはめて考えてみてください。本記事が、貴社の備えを見直す際の一助となれば幸いです。
▼ 防災庁の発足を機に備えを見直すうえで、押さえておきたいポイントを知りたい方へ
参考資料












