ハザードマップによる企業の災害対策
こんにちは、レスキューナウ ブログ担当です。
風水害対策においてハザードマップの活用が注目されています。この記事では、改めてハザードマップとは何か、どんな目的で何が記載され、何が分かるのか、見る時の注意点と意外な落とし穴、企業はどう生かしていくべきかをまとめました。
ハザードマップの見方はよくわかってるよ!という方は後半の「企業がハザードマップで確認すべきこと」からぜひお読みください。
この記事の目次[非表示]
- 1.ハザードマップとは、自然災害の被害を予測し可視化した地図
- 2.ハザードマップの入手方法は4つ
- 2.1.各市区町村役場で紙媒体、ウェブサイトからPDF等を手に入れる
- 2.2.ハザードマップポータルサイトを使う
- 2.3.防災アプリを使う
- 2.4.NHK全国ハザードマップを使う
- 3.ハザードマップポータルサイトでの見方
- 3.1.わがまちハザードマップの見方
- 3.2.重ねるハザードマップの見方
- 4.企業がハザードマップで確認すべきこと
- 4.1.会社の被害想定と避難経路を確認
- 4.2.避難経路を設定し、実際に歩いてみる
- 4.3.物流、営業、通勤への影響
- 5.自社の周辺が色を塗られていたら?
- 5.1.防災備蓄品で備える
- 5.2.BCPや行動手順を策定する
- 5.3.迅速かつ正確にリスク情報を収集する体制作り
- 6.注意!色が塗られていなくても安心はできない
- 6.1.「色が塗られていない=安全」ではない
- 6.2.都市型水害は表示されていない
- 6.3.最悪の場合を想定して備える
- 6.4.気象警報や避難指示が出たら指示に従う
- 7.まとめ
ハザードマップとは、自然災害の被害を予測し可視化した地図
ハザードマップとは、
一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」
と国土地理院では紹介されています。大雑把にいうと、自然災害の被害を予測し可視化した地図のことです。防災マップと呼ばれることもあります。
地域それぞれ、発災や被害が予想される場所、内容などをイメージでき、防災・減災の助けになります。
水害ハザードマップ作成の手引きによると、ハザードマップは「災害発生前にしっかり勉強する場面」と「災害時に緊急的に確認する場面」を念頭におき作成されており、自らの避難行動を確認する、警戒レベル2および警戒レベル2相当時がハザードマップを確認するタイミングとされています。
(出展:気象庁|防災気象情報と警戒レベルとの対応について (jma.go.jp))
(出展:水害ハザードマップ作成の手引き概要)
ハザードマップに関する法制度、作成者と表示される情報
ハザードマップには、以下のような情報が表示されます。
- 想定される災害の発生地点
- 被災想定区域(被害が想定される地域)
- 避難場所・避難経路
ハザードマップは「水防法」「津波防災地域づくりに関する法律」「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(通称、土砂災害防止法)」に基づき各市区町村によって作成、周知されています。
各ハザードマップには必ず記載しなければならない項目と、地域の特性にあわせて記載すべき項目があり、完成し公表した後も必要に応じて更新が行われます。
ハザードマップで確認できる災害の種類
ハザードマップは、その地域で発生しうる災害ごとに作成されており、それぞれ異なる想定される被害と避難場所等が記載されています。主なハザードマップの種類と表示内容は、以下のとおりです。
種類 |
表示内容 |
洪水 |
浸水想定区域、浸水深、浸水継続時間、早期の立ち退き避難が必要な区域、避難場所、避難経路など |
内水 | |
高潮 | |
津波 | |
土砂災害 |
土砂災害警戒区域、発生原因となる自然現象の種類(がけ崩れ、土石流、地すべり)、伝達方法、避難場所、避難経路など |
火山 |
噴石、火砕流、融雪型火山泥流、火山ガス、降灰後の土石流等の影響が及ぶ範囲など |
液状化 |
液状化危険度、発生傾向、災害学習情報など |
(出展:土砂災害ハザードマップ作成ガイドライン)
(出展:火山砂防計画策定指針(試行案))
液状化ハザードマップは他のハザードマップのように義務化されていませんが、住民・事業者と行政との間で情報を共有し認識を深めるリスクコミュニケーションを目的として作成が進められています。
(出展:宅地防災:リスクコミュニケーションを取るための液状化ハザードマップ作成の手引き - 国土交通省 (mlit.go.jp))
(出展:液状化ハザードマップを活用したリスクコミュニケーションの方法に関するマニュアル)
水害、土砂災害については下記でも解説しています。あわせてご覧ください。
ハザードマップの入手方法は4つ
各市区町村役場で紙媒体、ウェブサイトからPDF等を手に入れる
各市区町村ではハザードマップをウェブサイトに掲載したり、紙媒体として発行したりしています(刊行物に掲載されている地域もあります)。
レスキューナウの本社がある品川区では、品川区ウェブサイトの 防災・くらしの安全 > 防災(旧) > 防災関連資料 > 品川区防災地図(防災地図と各ハザードマップ) に入手方法が記載されていました。区内全戸へ配布されている「品川区防災地図」に記載されているほか、上記ページから津波、浸水、多摩川洪水、高潮浸水ハザードマップをPDFでダウンロードできます。
各ハザードマップ単体は紙面での配布は行われていないため、紙面で見たい場合は品川区防災地図を手に入れるか、PDF版を印刷することになります。
配布、入手方法は各自治体によって異なりますので、まずは該当の市区町村ウェブサイトや総合案内から確認するとよいでしょう。
ハザードマップポータルサイトを使う
国土交通省が提供するハザードマップポータルサイトでは、全国の市区町村が作成したハザードマップを見ることができます。市区町村ごとの「わがまちハザードマップ」と、災害リスク情報を複数重ねられる「重ねるハザードマップ」の2種類が用意されています。
わがまちハザードマップでは、上記で説明したハザードマップ以外にも自治体ごとに作成されている地震、建物被害、火災などの被害マップもまとめられています(呼び方は自治体ごとに異なります)。
ハザードマップポータルサイトの使い方は次の章で解説します。
防災アプリを使う
ハザードマップが見られるスマートフォン用の防災アプリが複数あります。全国を網羅しているもの、都道府県が運営しているもの、市区町村が運営しているものなど様々ですので、チェックしてみてください。
NHK全国ハザードマップを使う
2022年5月に公開された「NHK全国ハザードマップ」では、全国の浸水想定データが統合され、洪水と土砂災害のリスクを確認することができます。下記の注意書きもあり期間限定の公開ですが、公開時点では最も多くの河川を一度に見られるものとなっています。
※全国ハザードマップで示している「洪水のリスク」については、国や都道府県が管理する主要な河川の最大規模の浸水想定と、一部中小河川の浸水想定を表示しています。可能な限りデータは収集しましたが、中小河川の一部や内水氾濫など、未整備の場所もあり完全ではありません。地図で色が塗られていないから安全というわけではありません。全国ハザードマップと併せて地元自治体のハザードマップなどもご確認下さい。
※全国ハザードマップには、国土交通省と都道府県から提供いただいた「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」のデータを掲載しています。ただ、掲載されている地図が最新のものとは限りません。対策工事などが実施され、警戒区域の指定が解除されているケースや、新たに追加されたケースもあります。いつ時点の情報かは都道府県ごとに異なります 。
(引用:「全国ハザードマップ」お住まいの地域の洪水や土砂災害のリスクは? - NHK)
ハザードマップポータルサイトでの見方
ここでは、ハザードマップポータルサイトで情報を確認したいときの見方をお伝えします。
わがまちハザードマップの見方
- 「地図を見る」かプルダウンから地域を選択する。
- 「公開中>リンクを開く」をクリックする。そのハザードマップが公開されている各自治体のウェブサイトが開かれる。(その記載がない場合はその災害のハザードマップは公開されていない)
(画像出展:ハザードマップポータルサイト) - または、左上の「災害種別から選択する」のタブからハザードマップの種類を選択する。
(画像出展:ハザードマップポータルサイト) - 見たい地域を選択する。青く塗られた地域が選択したハザードマップが公開されている地域。
(画像出展:ハザードマップポータルサイト) - 遷移先のウェブサイトでハザードマップを閲覧やダウンロードする。
重ねるハザードマップの見方
- 「地図を見る」、住所入力、災害のいずれかを選択する
- 左のアイコンから災害種別を選択する
- さらに細かい選択情報を選び地図に表示する
- 見たい災害種別の情報を複数重ねて見ることができます。(画像は洪水と土砂災害を重ねています)
(画像出展:ハザードマップポータルサイト)
企業がハザードマップで確認すべきこと
ハザードマップの入手方法や使い方の次は、どこに注意しながら見ればよいかを紹介します。
会社の被害想定と避難経路を確認
ハザードマップで会社の被害想定を確認しましょう。例えば、レスキューナウの本社がある品川区では洪水、内水、高潮、津波、土砂災害のハザードマップと地震防災・危険度マップ情報が公開されています。それぞれの災害想定区域に入っているか、避難場所と経路はどこかを確認してください。
各従業員に自宅周辺のハザードマップや自宅までの帰宅経路を確認させることも大切です。リモートワークを実施している場合も、自宅周辺の災害リスクや避難場所、避難経路を把握してもらうよう周知したいです。
自社が災害想定区域の中にない場合でも、近隣の災害想定区域はどこか、利用できなくなるものは何かも確認しておくといいでしょう。
(画像出展:ハザードマップポータルサイト)
避難経路を設定し、実際に歩いてみる
次に、マップで確認した経路を実際に歩いてみてください。避難経路は現実的か、障害となりそうなものはないか等、実際に検証することでマップ上では気が付かなかったことが見えてくるかもしれません。定期的に歩いて経路や避難場所、障害物の有無、周辺の状況を把握することでいざという時にも不安なく行動できます。複数の避難経路を用意するのがおすすめです。
物流、営業、通勤への影響
自社拠点が災害想定区域外だとしても、周辺地域で災害が想定される場合、物流や通勤に影響があるかもしれません。とくによく使う道の周辺に災害想定区域があるかチェックしておきましょう。その際の避難場所も災害の種類ごとに確認してください。
自社の周辺が色を塗られていたら?
防災備蓄品で備える
災害が想定される地域の場合は、ただちに想定に応じた事前対策を進めましょう。ハザードマップのリスクをもとに事前対策を進めることができ、拠点単位でどんなリスクに備えるべきか、どんな備蓄をすべきかのヒントになります。
地下に電気設備や備蓄庫がある場合は特に対策が必要です。食料、水、トイレ、毛布が防災備蓄品としてよく挙げられますが、例えば洪水、内水、高潮などの浸水対策には土のうや水のう、止水板を用意したり、防水扉を取り付けたりすることで被害を軽減させることができます。被害を受けてしまった場合も考慮し、浸水後の後片付けに必要なスコップや保護具、消毒剤などもあると安全に処理ができます。
レスキューナウでは、どういった対策や防災備蓄をすべきかにお答えする無料相談を実施しています。お気軽にご相談ください。
BCPや行動手順を策定する
BCP(事業継続計画)とは、災害や事故などが発生した際に被害を最小限に抑え早期復旧、事業再開をするために立てておく計画のことです。
ハザードマップが危機の事前予測と迅速な避難をするためツールなら、BCPはさらに従業員の安否や設備の被害確認、復旧など初動対応を適切に行うためのマニュアルとなります(ハザードマップがBCPの一部とも言えるかもしれません。)。ハザードマップに加えBCPを定めておくことで災害発生時により適切な初動対応を行えたり被害や損失を抑えたりすることができます。
とはいえ、いきなりBCPのような大掛かりなマニュアルは策定できないこともあるかと思います。その際は、まずは
- 「どういう気象が予報されたら従業員の出社抑制、帰宅指示を出すか」
- 「○日前になったら従業員に予告するか」
- 「○○になったら土のうや止水板を出す。使い方は~」
- 「社内のこの備品、書類は上に上げるなどして保護する」
といった行動手順を具体的に決めて実行するだけでも被害を軽減できます。
社員への避難行動の周知方法として防災カードも有効です。レスキューナウでは実際に平時から気をつけておくことや避難行動判定フロー、適切な避難行動などを記載した防災カードを従業員に配布しています。
迅速かつ正確にリスク情報を収集する体制作り
事前対策が整っても、災害発生に気が付かなければ避難が遅れてしまうかもしれません。適切な避難や初動対応をするためには災害発生やリスク情報を迅速かつ正確に収集することも重要です。テレビやウェブメディア、防災アプリ、SNS、関係機関のウェブサイトなど様々な媒体からリスク情報を得ることができます。
しかし、それらを全て監視するのは難しいですし、複数事業所など離れた地域のリスク情報を得たりデマ等の正誤を判断したりするのはさらに難しいのではないでしょうか。
あらゆる災害・リスク情報を専用ウェブサイトで確認でき、離れた地域や休日夜間でもアラートメールで情報を受け取ることができるのがレスキューWebです。
また、企業では「安全配慮義務」も気にする必要があります。近年は自然災害から身を守るための事前の計画や、災害発生後に適切な情報収集や共有を行い、指示を下さなかった場合にも「安全配慮義務を怠っている」と判断した裁判の判決なども見られるようになりました。
この点からも、迅速かつ正確にリスク情報を収集し指示を出すことが重要です。
注意!色が塗られていなくても安心はできない
「色が塗られていない=安全」ではない
「自社周辺はハザードマップで色が塗られていないから安全だ!」と思ったそこのあなた、ちょっと待った!安堵するにはまだ早いです。
土砂災害において、土砂災害警戒区域等は、地形的に土砂災害の危険があっても住居や建物などが無い場合は指定になりません。そのため、土砂災害ハザードマップで色が塗られていなくても危険な地域である場合もあります。
他にも、令和元年の東日本台風で堤防が決壊した河川の約6割が浸水想定区域の対象ではない中小河川であったということもあります。
もともと洪水浸水想定区域の対象に指定されている河川(洪水予報河川または水位周知河川)は全国で約2,000河川でした。全国には約35,000河川ありますので、ハザードマップに反映されていたのはたった6%しかありませんでした。
そのため、2021年7月に改正された水防法により洪水浸水想定区域の対象河川はそれまでの洪水予報河川または水位周知河川に加え、一級河川および二級河川川のうち、円滑・迅速な避難確保等を図る必要のある河川も対象に追加され、対象は約17,000河川(全国河川の約半数)となりました。
ただし、追加された河川がハザードマップに反映されるには時間がかかりますので、注意が必要です。
(出展:「ハザードマップに関する現状と課題」ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会(第1回) 令和3年12月23日)
(出展:02【資料2】210714_資料2_水防法等の一部改正について (mhlw.go.jp))
都市型水害は表示されていない
また、自社の地下室やスロープなどは地上から流れ込む浸水により被害が生じることがあります。洪水・内水ハザードマップの浸水深の色塗りは地盤高を基準に塗られているため、地盤(1階の地面)より低い地下室は、場合によってはもっと早く水が流れ込みます。ハザードマップで一番薄い色のエリアでも、雨水の排水不良などで、人が埋もれてしまうような2mの高さまで地下室が浸水することもありえるのです。
過去には1999年に福岡県の天神と東京都の新宿でそれぞれ大きな都市型水害が発生し、地下室に閉じ込められて犠牲者が出ました。こういった地下室や地下街に浸水する都市型災害はハザードマップでは表示されませんので、十分ご注意ください。
道路のアンダーパスも同様にハザードマップには色が塗られていないことがあります。こちらは、道路の冠水想定箇所や事前通行規制区間・緊急輸送道路に関する情報が一覧になった「道路防災情報WEBマップ(国土交通省)」も参考に対策を講じてみてください。
最悪の場合を想定して備える
ハザードマップはあくまで災害リスクの目安です。必ず想定された被害が出るとは限りませんし、想定以上の被害になる可能性もゼロではありません。まだ未反映の河川等もありますので、随時ハザードマップの更新もあるでしょう。
ハザードマップで色が塗られていなかったとしても、最悪の場合を想定し、前章であげたような避難経路の確認、防災備蓄品の用意、BCPの策定、情報収集体制作り等はぜひ行ってください。
気象警報や避難指示が出たら指示に従う
繰り返しますが、ハザードマップの想定を超える災害が起こることもあります。たとえハザードマップで色が塗られていない地域でも、気象警報や避難指示等が発表された場合は、事業を止めてでもただちに浸水対策や避難など身の安全を守る行動をとってください。その時の対応や後の復旧、事業再開にBCPが役立ちます。
また台風や豪雨は発生時だけでなく、直後も大変危険です。安易に傾斜地や河川付近には近づかないほか、物流、営業に使用する道路にも十分注意してください。
まとめ
ハザードマップはあくまで災害リスクの目安です。追加河川の情報更新などもありますので、定期的な確認と訓練をし、ハザードマップとその他の対策を組み合わせて適切な災害対策を行ってください。
迅速かつ正確にリスク情報を収集できるレスキューWebはこちら
防災備蓄品や災害対策についてのご相談もお待ちしています。