
防災のプロが明かす、訓練設計のヒント―“最初の一人”になるための自信を育む方法
『毎年恒例の防災訓練。避難経路を確認するだけで、本当に意味があるのだろうか?』 |
そんな想いを抱えながら、いつしか訓練の目的が“実施すること”自体になっていないでしょうか?
私たちレスキューナウは、20年以上にわたり防災・BCPの専門企業として、まさにその課題と向き合い続けてきました 。
今回は、先日自社で実施されたばかりの防災訓練を交えながら、皆様の訓練を『儀式的なもの』から『本当に役立つ備え』へと変えるためのヒントをご紹介します。
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同じ内容の繰り返しを単なる“儀式”で終わらせないためには
災害が発生した際、現場の従業員が初動対応を迅速かつ正確に行えるかは、その後の事業継続を左右する重要なカギとなります。
そこで今回の自社防災訓練は、実際の状況を想定しながら「サーキット訓練」と「編成訓練」の二本立てで実施されました。
サーキット訓練とは、消防への通報の仕方や初期消火、直接圧迫止血法、心肺蘇生法、AED等の使い方を実際に体験しながら学ぶ訓練。
編成訓練は災害時を想定したオフィス内の被害状況把握と報告を行う訓練です。
▼防災訓練の種類について知りたい方はこちら▼
そのため、応急手当の仕方など、今回の訓練メニューの中には過去に複数回にわたって実施されてきたものも含まれていました。

「何度も実施されている訓練」と聞くと、従業員に「また同じ内容か」と思われてしまい、参加率や習熟度が下がってしまうのではと懸念される方もいらっしゃると思います。
しかし、訓練を主導した担当者は、同じ内容を繰り返すことに明確な意図が存在すると語ります。
「防災訓練で大切なのは反復です。プロ野球選手が毎日素振りをするのは基礎を体にしみこませるためであり、それをマンネリ化という人はいません。一方で企業の防災訓練になると年1回の訓練でもマンネリ化と言われてしまいがちです」 |
また、担当者は以下のように続けます。
「訓練を効果的なものにするかどうかは毎回新鮮な内容を実施するかではなく、訓練を単なる“儀式”として捉えるか、必要な“備え”として捉えるか、その意識の違いにあります」 |
とはいえ、人は経験したことのない危険を実感しづらいので、緊急時も「自分は大丈夫だろう」という正常性バイアスに陥りやすく、防災訓練も参加しなければいけない”儀式”として認識する方も少なくありません。
災害を経験したことがない従業員が大半を占める中で、危機感を共有するために重要なのは「想像力」です。
「こんなことが起きるかも」「あんなことが起きたらどうしよう」と日常生活の中でイメージする機会をほんの少しだけ増やすことができれば、きっと今行っている訓練もより良い備えになるでしょう。
▼訓練の参加率や習熟度についてお悩みの方はこちら▼
訓練で得られる“気づき”がいざというときの“安心”に変わる
同じ内容の訓練を反復して得られる自信の他に、訓練ではその時々の“気づき”を得られることも重要です。
そこで、実施されたのは組織としての連携力を試す「編成訓練」。
今回のシナリオは、地震発生と同時に社内が停電に陥り、その場にいる従業員が手分けをして被害状況把握と報告を行うというもの。
揺れが落ち着いた後、自分と身の回りの安全を確認した参加者は2人組で社内の各地に貼られた被害状況が書かれた紙を探します。

この訓練で得られた最も大きな気づきは、「慣れ親しんだ環境」という自信がいかに脆いか、という事実でした。
照明が一斉に消えた瞬間、時刻はまだお昼過ぎにもかかわらず、毎日見ているはずのオフィスの様子が一変します。

暗闇の中見つけた懐中電灯の光を頼りに社内を歩き回っていると、ついつい光が照らす先に意識を集中させてしまい、その輪からわずかに外れた場所を見落としそうになることも。
注意を向けている特定の物事に集中するあまり、周囲にある別の情報を見落としてしまう、まさに心理学でいう「非注意性盲目」を身をもって体験できる瞬間でした。
この「認知の盲点」は、ほんの一例に過ぎず、訓練では他にも以下のような課題が浮き彫りになることがあります。
【防災訓練の実施後に見つかる“気づき”の例】
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皆様の会社では、災害時において想定される状況を事前にシミュレーションし、その対策を講じることができているでしょうか。
BCPの策定ももちろん大事ですが、現場ですべてがその通りに進むことはほとんどないと言っても過言ではありません。
そのため、防災訓練の中で前もって“気づき”を得ることが重要なのです。
では、この“気づき”を得るためには、どのように訓練を設計すればよいのでしょうか。
▼防災訓練実施の第一歩やシナリオ作成についてお悩みの方はこちら▼
乗り越えられる困難が生む“共助”の意識
レスキューナウがお客様の訓練を支援する際や自社の訓練を計画する際にこだわっていることの一つが「被害想定を“現実的な範囲”に収めること」です。
あまりにも非現実的なシナリオは、従業員が訓練に参加する際に自分事として捉えることが難しくなり、参加する意義を見失ってしまう要因になります。
また、そのようなシナリオで実施された訓練に参加した人は、無力感だけを残し、『プロに任せるしかない』という考えから、その後防災について考えることに抵抗を持ってしまうことも少なくありません。
今回の想定も、「オフィス内で落下物による軽傷者が出る」「避難経路のドアが開かない」といった、職場で起こり得る現実的な範囲の状況に絞り込まれていました。
目的は「被害ゼロ」の完璧なシミュレーションではなく、まずは自助共助で対応できる範囲でリアルなシナリオを考え、「仲間と助け合いながら、なんとか乗り切る体験」をしてもらうこと。
皆様の会社にも被災経験がある方もいれば、全く経験したことのない方もいらっしゃるかと思います。
レスキューナウが実施する訓練は、その両者を踏まえて、「みんなで協力したらギリギリ対応できた。でも、課題もたくさん見つかった。」という絶妙な塩梅を狙ったシナリオが練られています。
▼20年以上にわたり蓄積したノウハウが詰まった訓練支援について知りたい方はこちら▼
緊急時、防災に明るい人材が必ずオフィスにいるとは限りません。
企業における防災は「数人のプロ」よりも「少しできる100人」を育成した方が災害対応力向上への近道になると訓練を主導した担当者は語ります。

完璧を目指すのではなく、全員が最低限の動きを身につけ、うまくいった体験やうまくいかなかった体験を「なんとなくでも覚えておくこと」が後々大きな差となります。
防災訓練を通じて、消火器の使い方や応急手当の方法など、実際に手を動かしてみないとわからないことを体験してみること。
防災備蓄における水や懐中電灯が、無いよりは1個あるだけでも対応できる場面が増えるように、訓練もまずはスモールスタートで実施してみることが何よりも重要です。
とはいえ、それが重要だと理解していても、多くの企業が初めから完成された訓練を目指してしまいがちな現実には、「防災訓練」に対するイメージが関係しているかもしれません。
企業の防災訓練の“実情”に寄り添うということ
防災訓練と聞くと、消防署などが実施する「法律に基づいた訓練」をイメージされる方も多いかもしれません。
もちろん、あらかじめ決められた講習内容を決められた時間内に行うのは非常に重要です。
一方で、同じ内容を実施することを考えた時、企業の場合は勤務形態や事業内容といった「実情」にまで踏み込むのは難しいことがあります。
「うちはリモートワーク主体で、日中オフィスにいる人数が少ない」 |
この「法律」と「実情」の間に存在するギャップこそ、私たちが20年以上にわたり民間企業として防災と向き合い続けてきた理由です。
大切なのは最初から完璧な訓練を目指すことではなく、会社にとっての「リアルな課題」を見つけるために、まずは短時間でも少人数でもいいのでやってみること。
私たちはその一歩踏み出す勇気と継続していく文化をどう作るかを共に考え、必要な時にはおせっかいを焼く導き役です。
今回の自社における訓練も、まさにその思想が反映され、「まずやってみる」「終わった後に振り返って反省点を見つける」という流れで実施されました。
「反復」を重視し(1章)、 「リアルな気づき」を誘発し(2章)、 「乗り越えられる困難」を設計し(3章)、 「企業の実情」に寄り添う(4章)。
レスキューナウが防災訓練を行う上で大切にしているこれらの要素は、すべてある一つの大きな目的を実現するためにあります。
▼レスキューナウの防災訓練支援について知りたい方はこちら▼
一人一人が最初の一歩を踏み出すために
終了後、今回の訓練を主導した担当者が語った言葉には、レスキューナウが企業の防災訓練支援を行ううえで大切にしている想いが詰まっていました。
「緊急時は、多くの人がどう動くべきか分からずに固まってしまいます。だからこそ、最初の一人が動く仕組みを作ることが何よりも重要になるんです」 |
誰かが行動を起こせば、周囲もそれに続きます。では、その「最初の一人」になるためのハードルとは何でしょうか。
それは多くの場合、「知識がないこと」ではなく、「行動する自信がないこと」です。
防災訓練とは、まさに参加者一人一人がその“最初の一人”になるための自信を育む仕組みそのものとも言えるでしょう。
「知っている」と「できる」の溝を埋める唯一の方法は、リアルな状況を想定した実践的な訓練を、組織の文化として根付かせるまで繰り返すこと以外にないのかもしれません。
レスキューナウは、皆様がその「次の一歩」を踏み出すための、あらゆるサポートを提供します。
「形骸化した訓練を脱し、本当に強い組織を築きたい」 |
そうお考えの担当者様にとって、この記事が背中を押す1つのきっかけになれますと幸いです。
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